あれは私が18の頃の事だったと思う。

原宿の改札を出て、何処かへ行こうとしていた。その時に、どこからともなくどよめきにも似た喚声が沸きあがった。

後ろを見ると、上半身裸に毛皮のベストをきたマタギの様な大男が、人を掻き分け出てきた。

なんだろうと見ていたら、男は「どいつもこいつもミーハーどもが、群れてるんじゃねえ!邪魔だ」

うろ覚えだがそういう風に怒鳴っていたように覚えている。

その男の風貌、肉体の存在感に圧倒されて、皆言葉を失ってしまったように感じた。

当時の原宿と言えば若者文化の発信地でもあり、行き行く人のファッションも個性的であったり、無個性的に人まねであったり、観光地のようになっていたように感じる。

そういう空気の中を打ち破るように、目の光る精悍な若者が現われ、怒鳴りつけていった。

周囲はなぜかばつが悪そうに、もしくはしらけた感じ、若干好奇心という空気が漏れ出ていたように感じる。

その時の大衆の反応というよりも、彼の大胆な行動や罵声の方が、自分の感情に共鳴できたからからも知れない。

まるで、その場の空気に良い意味で風穴を開けたというか、新鮮な空気と緊張感をもたらしたというか・・・・

その男こそ、武藤敬司というプロレスラーだった。

光る女で相米監督に、その圧倒的な存在感と体格、主人公の無垢で純朴な男に相応しいと抜擢された。

相手役にはマンディ満ちる(ジャズシンガー秋吉敏子の娘)が映画初出演となる。

話題の映画であった。

ストーリーは、東京へ行ったまま帰ってこない許嫁を探しに北海道からやって来た大男が、歌を歌えなくなった美しいオペラ歌手との真実の愛を見つけるまでを描くという都会の御伽噺

罠に陥れられる女と都市の闇の世界と言う退廃的なものと対極に愛の純粋性を描いていた。

武藤さん自体、インタビューで、この映画の撮影はプロレスよりきつかったと言っていたように覚えている。

なんとなく、未だに春の珍事としてとして覚えている。

アートを巡る旅